今まで、私が嘔吐恐怖症になったキッカケが1975年の小学4年生のときの夜、嘔吐したこと、それ以来、小さな怖さによって、給食のパンを残すようになったこと、クラスメイトが吐くことを見て、自分がそうなったときに、嫌われんじゃないかと恐れる自分がいること、1学年上の生徒が廊下で、その担任Tからパンを口にねじ込められている光景を見てしまい、吐くこと、食べることへの恐怖心が強くなってしまったことをお伝えしました。
そして、小学6年。
担任が女性で「これで小学校は乗り切れた!」と大喜び。4月は今までの通り、給食では、おかずだけを食べる日々。
5月連休明けのある日の給食時間のこと。
おかずを早々と食べ終えた私はパンを残こそうと、パン2枚を布巾に包み、自分の給食袋に入れようとした。
その瞬間!
突然、大きな声が教室中に響きわたる!!
「鈴木君、今、残したパンを出して食べなさい! 牛乳も残さず飲みなさい!」
担任からの、突然の大きな声だった。教室前にある担任専用の席から立ちあがり…。
和やかだった教室が一瞬でシーンと静まり返り、クラスメイトは「何が起きたんだ?」とキョトンとした表情。シーンと静まり返った中、私は給食袋に入れた布巾を取り出し、パンと一緒に机の上に置く。クラスメイトの視線を浴びながら、教室の前に置いてある牛乳ケースの中に1本残った牛乳ビンを、一歩一歩、恐る恐る取りにいく。
私が出す音しか聞こえないほどシーンと静まり返った教室。私が牛乳を取りに歩く足音、牛乳を取り出す音、席に戻る足音しかしない。私が席に座ると、また大声が響き渡る。
「今日から給食を全部食べなさい! 甘えてるんじゃない!」
心臓がドッキン、ドッキンと大きく鼓動する。
頭から血の気が引く。
身体全体に、何ともいえない緊張が走る。
気持ちがどんどん悪くなってくる。
「どうしよう??」 不安だらけ。
クラスメイトは自分の給食を口にはじめるが、笑いもなく、食べる音がするだけのぎこちない雰囲気。オレのせいだ!と感じながらも、食べることが怖い!
まずは牛乳を飲もうと、ビンのふたを覆っている青いビニールカバーを取り、紙で出来たキャップを親指の爪で取る。担任の視線が私にばかり向けられている。小さく息を吐いて、牛乳を一気飲みする。途中で飲むのを止めると、吐いてしまうような感じがしたので。何とか牛乳を飲み干す。牛乳が喉を通り、胃の中に流れ込んでいくのを感じる。「(大丈夫!)」と心の中で言い聞かせる。
牛乳がなくなり、少し気持ちが楽になる。残るはパン2枚…。
一口サイズにパンをちぎる。口に入れて噛む。唾液が出て来ない。パンを噛めば噛むほど、口の中はカラカラに渇いてくる。飲み込めない! 喉が反抗する。口の中でさらにパンを小さい塊にして喉に入れようとしても喉はなかなか受け入れない。米粒ほどにまでしてやっと喉を通っていく。口の中のパンはなかなか減らない。最初に一口サイズのパンを入れてから、3分ほど経ってもまだ口の中に残っている。時間はドンドン過ぎて、焦るばかり。
担任の視線は私に向けられたまま。
他のクラスメイトは、食べ終えた食器や牛乳ビンを片付け始める。私の机の上だけ、まるまるパン1枚と、一口だけちぎったパンが残されている。何とか最初に口に入れたパンが口からなくなり、胃の中に。
そこで、昼休みが始まるチャイムが鳴る。
クラスメイトは一斉にグランドや廊下に遊びにでていく。私だけ席に座ったままパンを食べ続ける。
「(でも、先生はこれで職員室に行くはずなので、パンを残せる)」と心の中でつぶやく。
しかし、
先生は、机に座ったまま、動かず、私に視線を向けている。
「どうしよう!」ドンドン追い詰められていく。パンは喉を通らない、口の中はカラカラ。パンを飲み込もうとすると、吐きそうな気分になる。
昼休みが終わるチャイムが鳴り、次は教室の掃除の時間。教室にあるクラスメイトの机が一斉に教室の後ろ半分に詰めながら運ばれる。私の机も後ろ側に移動。教室の前にある担任の机はそのままの位置。しかし、掃除時間になっても担任は席から動かない。私は担任の監視のもと、自分の机に残っているパンを食べ続ける。
パンを手のひらの大きさにちぎり、それを手の中に入れ、握りこぶしを作るようにしてパンを小さく、小さく潰す。パンはかなり小さくなるもの。小さく潰されたパンを見ながら「たった、これだけの大きさのパンを食べるだけなんだ!」と言い聞かせる。しかし、喉が硬直して受け入れない。
右手をグーの状態にしたまま、口につけ、パンを食べている素振りをする。口の中にはパンが入っていないにもかかわらず、パンを噛んでいる振りをする。そしてパンを飲み込む振りをする。パンは握りつぶされた状態で、右手のこぶしの中に残っているまま。
他のクラスメイトが担任に話しかけている、ちょっとしたスキを見て、右手のこぶしの中にあるパンを、自分の体操ズボンのポケットにサッと入れる。
こんなことを繰り返し、あたかもパンを食べたように振る舞う。
次の日も、またその次の日も。
給食が始まると、まずはおかずをすべて食べる。次に牛乳。それは一気飲み。残るは鬼門のパン2枚。なかなか喉を通らず、昼休み、掃除時間が終わるまで食べ続ける。もちろん、パンは小さく握りつぶし、担任のスキを見て、ズボンのポケットに忍ばせる。
担任の監視は、給食時間から掃除が終了するまで続く。そんな日が続く。
身体はもう耐えられない。
朝、学校に行き、給食時間が近づくにつれ、身体がある反応を示すようになる。
頭から血の気が引く。ドッキンドッキンと聞こえるほど激しい心臓の鼓動。喉の硬直。口の中はカラカラに渇き切る。呼吸は小刻みに早く荒くなる。手や足の先のピリピリとしたシビれ。胸のムカムカ。胃がキリキリ痛む。気持ちが悪くなる。そんな異変が身体中に起こり始める。
身体の異変は、給食時間の前だけに留まりません。
まさか、そんなところにまで影響が出てしまうとは!
それは、次回お話しします。