恐怖症そのものは、まったく改善されないけど、大学の寮でお酒を飲まされ続けているうちに、お酒で酔うと身体がリラックスして、不安や恐怖が徐々に治まっていく感覚に気づく。これは大きな発見。
4月第3週の新人歓迎コンパが終わると、寮の先輩は、お酒の一気飲みを強要しなくなる。それは、
「最初に酒の怖さを知っておいた方がいい」と。なるほど!
寮内では、毎晩どこかの部屋で何人かが集まって、楽しくお酒を飲んでいるのが当たり前の風景。酔っぱらい、楽しく騒ぐ。時には、しみじみと語り合うこともある。お酒を飲む楽しさ、良さが見えてくる。そうしている内に、自炊して自分の部屋で夕飯を食べていた私も、他の部屋で食べ物を食べることに恐怖を感じなくなっていく。
とはいうものの、吐くことへの恐怖は残るまま。
ある日の夕方、先輩から
「今日は久しぶりに外へ飲みに行くぞ!」と居酒屋へ誘われる。ヤバい!外食だ!
「(ヤバいな! 寮で飲めばいいじゃん)」と思いながらも断れず、行くことを了解する。心臓がドキドキしてきた。手足の先がピリピリしてきた・・・。寮生10人くらいが参加。
寮から歩いて20分。居酒屋に到着。席に案内される。
靴を脱ぎ、5人ずつ対面してテーブルにあぐらをかいて座る。
心臓はドキドキ。落ち着かずソワソワする。
全員酎ハイをオーダー。先輩が料理を次々に頼む。
ジョッキに入った酎ハイがテーブルに届き、まずは乾杯。心臓はドキドキ。胃はまだ空だし、飲みものなら大丈夫と酎ハイを飲む。空腹ということもあり、料理が到着する前に酔いがまわってくる。
酔いがまわってくると、不思議な感覚になる。
恐怖心が徐々に薄れ、身体の異変も徐々になくなっていく。乾杯するまでドキドキしていた心臓が普段通りの穏やかな鼓動になる。手足の先のピリピリも消えていく。少しずつ気分が穏やかになり、身体から余計な力が抜けて、リラックスしてくる。安心感も出てくる。
寮では同じ体験をしていたが、それは寮生活や寮のメンバーに慣れていたからだと考えていた。でも、そうではない。
寮でなくても、外で飲んでも酔いがまわってくると不安や心配が消え、リラックスできるという経験。居酒屋なので、他のお客さんもいるけど、酔ってくるとすぐ近くにいる他人も気にならなくなる。私にとっては、意外で、不思議な感覚。すっかり忘れてしまった感覚。
頼んだ料理が次々にテーブルに並べられる。
鍋もの、焼き鳥、焼き魚、唐揚げ・・・。
小皿や箸が各メンバーの前に配置される。そしておのおの料理に箸を向ける。
「(食べる量が決まっていないから、そんなに食べなくても大丈夫だな)」と。そう思うと酔いも手伝って、安心感が広がる。
酔いはまわっているが、飲みすぎると吐いてしまう危険があるから、やや緊張を保ちながら、酎ハイを飲む。さらに酔いがまわる。そうすると目の前にある食べ物にも手を付けたくなる。実家や寮の部屋ほどの量は食べられないが、給食で食べていたくらいの量は食べられる。
大人数で居酒屋に行くと、誰がどれだけ食べたなんて、誰も見ていないし、誰も気にしない。プレッシャーにならない。一人分の食べる量が決まっているとそれがプレッシャーになる。居酒屋はそれがないから気楽に過ごせることも判る。
今までまったく気づかなかったけど、酔うと不安や心配が軽くなって、身体の異変も起きない!緊張感がすべて消えるわけではないが、落ち着いていられる! そして何よりも、仲間と楽しい時間を過ごせる!
そんな喜びを噛みしめる。
朝から晩までお酒を飲むわけにはいかないけど、これって、恐怖症改善のヒントになるんじゃないのか? と考えるようになる。
とはいうものの、何を、どうしていいのかはまったく判らないまま。
居酒屋なら何とか対応できるという手応えをつかんだことは大きな収穫。一歩行動範囲が広がった。それ以来、先輩や同僚に居酒屋に誘われても、不安はあるが身体が異変を示すことはなくなる。
大学に入って、朝食、昼食はどうしていたかというと、、、
朝食は相変わらず食べず。昼は、寮は大学から原チャリで2、3分の近いところにある。昼どきになると、大学の売店で焼きソバ、サンドイッチ、おにぎりなどを買って寮に戻り、自室で食べていた。たまに学食で食べることもあるが、人が少なく、一人で食べられる隅の方の席があれば、そこで食べることもある。(一人だけなら、もし気分が悪くなったとしても残せばいいから気楽)学食が混んでいるときは使わない。逃げ場がないような人混みは怖く、気分が悪くなるので。
酔うと気分が楽になる。居酒屋なら食べる量など誰も気にとめないから、さらに楽になることが解ったことが大きな収穫。恐怖症改善への何かのヒントになるんじゃないかと感じはじめていた。
次回は、
「恐怖症になっていなければ・・・、手に入れたいものはコレだけ!」についてお伝えします。