大学の寮に入寮したその深夜、酔った先輩たちに起こされ、ウィスキーを一気飲みさせられ、新人歓迎コンパの概要を聞かされた話しを前回しました。
「第3土曜日の新人歓迎コンパ、楽しみやな。オマエら、そん時、ドンブリで日本酒一気飲みしなあかんで。ゲロゲロ吐くまで飲まされるでっ」
この話が鮮明に頭に残る。ウィスキーの酔いがまわる。
その話で、ビビっている状態なのに、身体は異変を起こさない!
意外。不思議な感覚。酔うことで気分が楽になっていることに気づく。
朝4時くらいにお酒がなくなり、飲み会はお開き。3週間後の新人歓迎コンパにビビりながらも、気分良く、布団に入る。
朝、10:00ごろ目が覚める・・・。
先輩たちが話していた新人歓迎コンパの話を思い出すだけで、怖くなる。どんぶりで日本酒を一気飲みしたら、間違いなく吐くだろう。そう考えるだけでドキドキ、怖い。
「(急用で実家に帰らなければならないとウソをついて避ける?)」
「(1年生で話し合って、歓迎コンパはボイコットする?)」
大学の授業が始まっても、考えることはそんなことばかり。
先輩はほぼ毎日お酒を飲む。夜中、大声が響き渡り、廊下で大きな足音を立てながら走り回っている。2日に1回は1年生も呼ばれ、「飲め」と飲まされる。そして新人歓迎コンパの怖さを刷り込まれる。
新人歓迎コンパに恐怖を感じながらも、お酒を飲むと、気分が楽になって、身体にも異変が起きない! 恐怖症改善へ向けてのヒントがあるんじゃないか・・・と考えるようになる。
新人歓迎コンパから逃れることを実行できず、いよいよ当日、土曜の夕方を迎える。
食堂に移動する前に1年生がある部屋に集まり、事前に、
「チーズを食べた方がいい」
「牛乳を飲んでいた方がいい」
「酔い止め薬を飲んでいた方がいい」
それぞれの対策を話す。
僕は、いつも通り空腹で挑む。胃に食べ物が入っているだけで怖いから。酔いやすいのは承知の上。
20畳くらいある食堂のテーブルやいすが、すべて別の空き部屋に片付けられていて何もない。食堂の床は、ビッシリと新聞紙が敷き詰められている。汚物を片付けやすくするために。食堂のど真ん中は、日本酒が入った一升瓶8本くらい入った木製ケースがドンと置かれ、ケースの上に一気飲みするためのどんぶりが1鉢置かれているだけ。
1年生9名と2年生11名が食堂の4方向の壁にもたれ、床に敷いてある新聞紙にあぐらをかいて座る。食堂横の廊下には、この寮を出た3年、4年の先輩15名くらい立っている。異様な光景が目に映る。
もう吐くことが避けられない! 心臓がドキドキしてくる。落ち着かない。
いよいよ1年生のどんぶり一気がはじまる。僕は3番目・・・。もう腹を括るしかない。
自分の番がくる。
どんぶりに並々と、満杯に注がれる日本酒を見ながら、緊張が走る。号令がかかる。
どんぶりから日本酒がこぼれるとやり直しになるので、慎重にどんぶりに注がれた日本酒を飲む。すると3年生か4年生から声がかかる。
「おい、オマエ! 飲むの、遅せーぞ!」
やり直しは絶対に避けたいので、無視して自分のペースで飲み続ける。日本酒がどんぶりの底に近づくと、スーッと口の中に消えた。終わった! 隣に座っていた2年生の先輩に「できました!」と喜びを伝えた。
そして次の1年生の番・・・。
次第に、酔いがまわってきて、話していても、ろれつが回らない。でも、乗り切れた!
酔いがどんどん回ってきて、意識がなくなってきた。もうダメ・・・。
・・・・
ふと、目が覚めると自分の部屋の床に寝ていた。その瞬間、「オエーッ」。床の上に敷いてあるじゅうたんに吐いた。8年振りに吐いてしまった。飲みすぎ状態で、頭がガンガン痛む。脳が石のようで、頭を動かすと、石のようになった脳が、頭の中で踊る感じ。そして周りがグルグル回転している。再び「オエーッ」とじゅうたんの上で吐く。
朝がきた。
頭は相変わらずガンガン痛む。何とか新人歓迎コンパを乗り切れた!
それより、二酔いが酷すぎて、その日は何も口にすることはできなかった。吐いたことへの怖さよりも二日酔いで頭がガンガン痛かったことが気になった。
恐怖症はまったく改善されないが、お酒に酔うと身体がリラックスする状態になり、不安や恐怖が収まっていく感覚を体得できた。これは大きな気づき。でも、どうする?
次回は、「恐怖症改善のヒント発見?」についてお伝えします。